「私は動かない」

イザヤ書 30章15節

説教 新免 貢 教師

 1955年12月1日、アメリカ合衆国、アラバマ州、モントゴメリーで、ある黒人女性が百貨店での裁縫仕事を終え、その帰り道、バスに乗りました。彼女は空いていた白人用座席に座りました。途中で白人男性の乗客がバスに乗り込んでくると、バスの運転手は、席を譲るように命令しました。彼女は「いいえ、私は動かない」と言って拒否しました。人種隔離政策違反を理由に、当時43歳の彼女は警察署に連行されました。彼女の名前はローザ・パークスです。逮捕から3か月後、ローザ・パークスは、運転手の命令に従わなかった理由をこう説明しました。「とにかく、一日中働いてカラダがへとへとに疲れていました。座席から離れるように言われても、たまたまそれに従う気になれなかったというだけのことです」。

 難しい理屈ではなく、誰にでもわかる明確な理由です。彼女の逮捕がきっかけとなって、バス・ボイコット運動が起こりました。白人と黒人をごちゃ混ぜに乗せたバスを、ワシントンD. C.から南部のニューオリンズに走らせるフリーダムライド運動も起こりました。人種差別主義者たちはバスに放火し、黒人を木につるして殺しました。これらの恐ろしい場面が映像を通して全米、全世界に伝えられ、多くの人たちが良心を呼び覚まされ、黒人たちの運動に関心を持つようになりました。

 不自由な足を引きずりながら歩いている年老いた黒人女性は、こう言いました、「私は自分のために歩いているのではない。子供と孫のために歩いているんです」。こういう崇高な言葉は、難しい本を読むことによってではなく、居ても立っても居られない状況から生み出されます。多くの心ある市民たちが立ち上がって、公民権法が成立しましたが(1964年)、人種差別は今もなお根強く残っています。こうした状況が、太平洋を隔てて、日本にいる私たちの現実ときっちりつながっているはずです。「私は動かない」は「私の信念は揺るがない」という言葉でもあります。それは世の中に変革の希望をもたらす良い言葉です。ローザ・パークスという普通の女性がそれを証明してくれました。私たちもローザ・パークスの一人となることができます。

2020年10月11日 | カテゴリー : 主日礼拝説教 | 投稿者 : サイト管理者