「タイの山奥のクリスチャン」

詩編72編1~7節

説教 原 誠 牧師

 わたしはこれまで約30年、毎年、タイに学生と一緒にスタディ・ツアーを行ってきました。このプログラムのなかで一番大切なことはタイ北部のミャンマーとの国境に近いジャングル地帯に住んでいる少数山岳民族のクリスチャンの村を訪ね、共に礼拝することです。タイは仏教に基づいた王国で憲法で信教の自由は保証されていますが、プロテスタントは0.3パーセント、30万人です。タイのキリスト教は教会や学校や病院を設立し、近代化に寄与しましたが日本と同じく少数派です。しかし北タイの山岳民族のなかでは状況が違います。北タイのジャングルのなかに80万人を超える少数山岳民族が生活しています。その民族とはカレン、ラフ、モン、ヤオ、リス、アカなどで、山の中に部族ごとにいわばモザイク状態で生活しています。タイの国籍を持たない彼らはタイ政府の対象ではありませんから電気や水道はなく、学校も病院もありません。ですから政府にとってみれば不法滞在者ということになります。この80万人の中の40パーセントがクリスチャンで、その数は30万人を超えます。わたしたちはその村に泊めてもらい、農作業を手伝い(邪魔をし)、雨水のシャワーや紙なしのトイレを経験します。近年は政府によってソーラーバッテリーが配布されるなど急激な変化が起こっています。
 日曜日には朝7時に女性だけの礼拝を、10時半には村人全員で礼拝を行います。礼拝のための音楽はギターです。聖書は全員に行き渡らないし読めない人も多いので、礼拝のなかでは全員で聖書箇所を朗読します。聖餐式はブドウジュースとビスケットで行います。午後3時に村の子どもたちだけの礼拝です。日曜日は一切仕事をしないで文字通り安息日、神と共に過ごす日として過ごします。
 近年は換金作物を作り市場に出荷します。平均的な年収は4~5万円です。教育を受けたことがない親たちは子どもたちには教育の機会を与え、タイ国籍が取れるようにしようとします。だから子どもたちはタイの町や村で寮生活をして地元の学校に通わせます。
 どうして彼らはクリスチャンになったのでしょうか。その伝道は集団改宗によるものです。伝道に何度も失敗した宣教師は、村の長やシャーマンらと語り合いそして合意をした上で、村ごと洗礼を受けてクリスチャンになります。宣教師が伝えるメッセージはキリスト教の神は「愛であ」り、神は人びとを呪わない、これが本当の神だ、愛は解放だということです。またクリスチャンになれば学校や病院を作る、キリスト教になれば結納なしに結婚できる。こうしてジャングルのなかに村ごとにモザイク状況でキリスト教が広まったのです。
 日本とは異なった状況のなかでの伝道は、近代化とか教養ということではなく、直接、魂に呼びかける直截なものでした。 「山々が民に平和をもたらし/丘が恵みをもたらしますように」。

2020年10月18日 | カテゴリー : 主日礼拝説教 | 投稿者 : サイト管理者