「人とのかかわり」
1999年まで22年勤めていた、重度の知的障がい者の施設で、人とのかかわり方をい
ろいろな方から教えてもらいました。
かかわり方が判らないまま、職員として一方通行のかかわりしか持てなかった方も何人か
居ました。コミュニケーション、言葉だけでない心の通い合うかかわりを持てるようにと
心がけて来ました。

@やったことを認めてくれることでBさんは穏やかになる。
Aどんな重い知的障害を負っていても意思の疎通が取れることを教えてくれたAさん
B 罰を与えない穏やかな対応で信頼関係ができた Cさん(内村鑑三に触発され)
C自閉症の鸚鵡返しの方との意思の疎通の入り口を教えてくれたDさん

@やったことを認めてくれることでBさんは穏やかになる。
ディールームで頻繁におしっこをしていたBさん、お手伝いをするようになって、放尿し
てズボンとパンツを脱ぐことがなくなる。険しい表情もなくなる。
・非常勤の職員が、小川さんが棟残りのときBさんの放尿がないことに気が付く。 職員
の一人も私と同じように対応、その人との関係も改善される。
洗濯物の片付けのお手伝いをして頂いて、「Bさん、ありがとう」と言葉を掛けて御礼
をするだけ。
他の職員はおしっこばかりしているBさんに、洗濯物を仕分けした籠を運ばせることに
躊躇。
ディールームで過ごす際、職員のかかわりのないとき、頻繁に放尿して、ズボンパンツを
脱いでは、下半身裸で過ごす。・・・気がついた職員が清拭し・着替えを与える。
ある日、作業している姿を何気なく見ていると、Bさんを重石にして、すのこの端切をほ
かの利用者が行って、切り終ると、Bさんにジェスチャーで、すのこをひっくり返して反
対側を切る旨を伝えると、Bさんがすのこを回転させ、その上に重石になる。鋸で切る利
用者がニコニコして頭をなでて、すのこの端を鋸で切り出す。
そして、その時すのこの上で放尿はないのである。
・・棟で同じ事をすればよい。と思案を重ねる。
Bさんの生活する棟は、重い人が多い生活棟のために、ジェスチャーで指示する利用者は
いないため、職員が代行するしかない。
そこで、職員の行っている、洗濯物をリネン庫の整理ダンスに片付ける仕事に着目、洗濯
物を仕分けした籠を誰かが持っていてくれたら助かる。
・・・ここにBさんを最初強引に導入、目を三角にして不満げに対応してくれるが、籠一
つを片付けるごとに「Bさん、ありがとう」と、Bさんの顔を見てお礼をいうと。
次回からは、ディールームの端に座っているBさんがスムースに立ち上がってきてくれる
ようになり、最終的には声掛けを待ってくれるようになる。
そして、当初期待した、洗濯物を片付けている間は放尿はなくなるだろうとの予測を上回
って、かかわりを持っていないときも、私や同じように対応する職員のいるときは放尿は
ほとんどなくディルームで過ごせるようになる。
 会議など棟残りの多い非常勤のかたが、今日は「Bさん、まったくないよ」と指導員
室で事務処理をしている私のところに、言いにきてくれる。
上記の経緯を説明し、洗濯物があがってきたら教えてくれるようにお願いし。非常勤の方
も一緒にBさんに籠もちのお手伝いを頼む。

Aどんな重い知的障害を負っていても意思の疎通が取れることを教えてくれたAさん
最重度の知的障害で癲癇発作を持つため、定時排泄、2時間おきに声をかけているが、職
員によっては、まめに対応している。発熱、便秘もあるため、試行錯誤して、水分(ぬる
ま湯)を本人が飲みたいだけ摂ると、発熱もなく、便秘にもならず、興奮も少なく、発作
も少ないことに、二年ほどの対応で気が付く。
必然的に、排尿回数は多くなる。二時間のインターバルでは粗相してしまう事も多くなる

施設のおやつの場合、本人が意思表示できれば、お変わりもできるが、意思表示できな
い人は、コーヒーカップ一杯で水分補給は終わりになってします。
Aさんの場合、テーブルの前において、手をコップに沿わせると、口へ持っていって飲ん
でくれます。のどの渇いているときは、自分から手の出るときもあります。
夏場など汗をかいたときなどは、二杯飲むことがよくありました。
声掛けを豆にして、失敗を少なくしようと対応している中で、「Aさん、トイレ行くよ
。」と声を掛け、介助してベットから起き上がらせ、トイレへ連れて、座らせる毎日。一
年ほどの対応で、起き上がりのよい時はトイレに座ってすぐ排尿のあることに気づく。
ある日、「Aさん、」と声を掛けたら、間髪なしに顔を私に向け『待ってました』といわ
んばかりの“にやっ”とした表情。
ベットからの起き上がりは、手を支える程度、立ち上がりもスムース、トイレへ座らせる
と、すぐに排尿と排便してくれました。非常に楽な介助、腰を痛めることなどありえない

その後、私は「Aさん」と声を掛けて、反応がない場合。そのまま寝かして置くようにな
る。・・・定時排泄介助はしなくなった。
Aさんは言葉なく「うーっうーっ」の語調の違い、リズムの違いしかない。
後は、あけられない扉の前で手を組んで「うーっうーっ」・・・他の利用者から、「お
しっこしたいんだよ」と教えてもらう。100%ではないが、何らかの要求行動である事
が多かった。・・・・水分、トイレなどでした。
私の夜勤、日中の棟残りのときはほとんど見られなくなっていた。
ほかの職員にも教えるが、失敗した後の着替えや清拭、片付けなど面倒を考えると、定時
排泄を繰り返している職員が多かったように思う。
ただ、重度の発達障害を負った息子さんを持つ非常勤の方は、「Aさん、こっちの言うこ
とがわかるんだ。」、「これなら楽でいい」と実践してくれていました。

B 罰を与えない穏やかな対応で信頼関係ができた Cさん(内村鑑三に触発されて)
左眼のまぶたに指を突っ込んだり、耳に指を突っ込んでいる姿、ニヤニヤしたり、険し
い表情に変わったり、ディールームの新人職員の近くに近寄ってきて、右手の甲でちょっ
と触れてみたり、「Cさん〜〜しちゃだめ」(オウム返し)を繰り返して、廊下を走った
りしている。
廊下の角を曲がり出会い頭に、職員や利用者をいきなり叩いてしまい。自分の手の甲を
噛んで、思いっきり走って自室に走り逃げさる。走ると途中にいる職員・利用者もたたか
れることが多かったように思う。
職員も利用者もCさんの動向に注意を払っている緊張感が常にあったように思う。同じ
棟で生活している利用者で他の利用者に命令的な方も、Cさんには、やさしい対応をして
いた。
職員もみな優しい対応をしていた。が、Cさんが興奮してたたくときなどは、厳しく応
戦せざるをえない状況も多くありました。
Cさんが入所してきて、しばらくは、緊張して対応せざるを得なかったが、当時、袖ヶ浦
の強度行動障害施設を見学したり、自閉症、広汎性発達障害、ティーチフ゜ロク゛ラムな
どの処遇方法についての研修会に参加していく中で、「受容」することの大事さを教えら
れました。
しかし、私たちが、Cさんに生活上彼の嫌がる介助、援助ははせずに、優しくそのままを
受け止めることが、「受容」と思っていましたが、その受容では、彼の心の平安はなく、
絶えず不安の中に置かれていることに気が付かされました。
・・・強度行動障害の施設では、職員がそばに寄り添い、見学者のわれわれのことを心配
ないよと説明しつつ、肩を抱き寄せて対応していました。
利用者と同じものを見て、説明し安心を与えていました。それは彼らが敏感な感受性で
日常の変化を捉えて不安になりやすい方たちであることを教えられました。
・・・このことは、その後通院の付き添いで、彼に寄り添って、どこかの身体が触れるよ
うにして、誰かが前をとおるときなど、「皆、Cさんと同じに、お医者さんに見てもらい
に来てるね。」とお話ししながら、右手に触れたりすることで、外来の患者さんをたたく
ことはありませんでした。・・・以前、通院のときに叩いてしまった事があったようです

また、研修会でキリスト者の内村鑑三がアメリカに渡って知的障害児の施設での介護職員
を経験した際のエピソードとしては、『いたずらした利用者に罰を与えず、むしろ内村自
身が断食した。』とあります。
自分には到底出来ないこととおもっていましたが、ある遅出勤務の入浴で洗身介助をし
て、お風呂から上がるCさんを脱衣室で拭き取り介助をして、立位の足のふき取りをして
いるときに突然、頭部を拳固で何発か殴られました。
それまでだと、応戦することも多かったのですが、応戦の後は、走って逃げ去り、他の利
用者を巻き添えにすることも多いため、その日は冷静に、Cさんの両腕を掴んで「小川さ
んは、痛くて困っているから、もう叩くのはやめてください。」とお願いすると、掴んで
いた腕の力は緩み、わかってくれたようでした。
そのあくる日からは、私の声かけに対して、気持ち悪いくらいに従順になって、ほかの職
員に言わせると、「小川さんの従属物になってしまったよ!。小川さんはCさんに何をし
たの」
と、よっぽどひどいことでもしたか、Cさんの好きな食べ物を与えているようにいわれま
した。
 食事の介助のあと、歯を磨くから待っていてと声を掛けて、他の利用者の世話をして
いて、こちらが忘れていると、ほかの職員から、Cさんは歯ブラシを持って、洗面所で待
っているよと声を掛けられる事がよくありました。Cさんの歯磨き介助は、私ともう一人
の職員しかさせてもらえませんでした。
以前は私も歯磨き介助中に、ボディを何度も食らっていましたが、その脱衣室の一件以
降、一度も叩かれたことはなく、生活、作業ともCさんにとってやりたくないことでも、
拒否することなく、叩くことなく付き合ってくれました。ただ、顔の表情に険しさが出た
ときなどは、私には抵抗しませんが、近くにいる利用者を叩くこともみられ、表情を見な
がら、無理のない範囲でいろいろ行っていただきました。

C 自閉症の鸚鵡返しの方との意思の疎通の入り口を教えてくれたDさん
普段は、手を叩いたり、手を振ったり、ニコニコして、職員に近づき頬を寄せてきたりし
ます。調子の悪いときは、部屋のベットから全く動けなくなったり、時には、職員の何気
ない指示的な声かけに、飛び跳ねて興奮して叫んだりしている。
水分は好きで、おやつのコーヒーなどはお変わりを何度もして、トイレへいけずに失敗
することがよくありました。普段は、声掛けの定時排泄で失敗することは少ないようでし
た。
食事中の興奮はよくみられ、食堂の席につくなり大きな声をあげて興奮して、飛び跳ね
て箸を投げつける事がよくみられます。
これは作業中も同じで調子の悪い日は、全く動けない、反応できない。右手を噛んで声を
あげて飛び跳ねる。持っている道具を投げつけるなど危険な行為が時々見られる。 夜間
も原因不明で興奮して、飛び跳ね、興奮がきわまると、床に自分を叩きつけるような自傷
的なパニックに陥ることが時に見られる。
パニックが増幅され、自傷行為に至らないための対応法として、抱っこ法や片倉法などを
参考に、抑えながらコミュニケーションを取っていく事を、研修や本で学んだこと試行錯
誤していく中で、パニックにしないことを心がけていく、利用者関係で全く原因をつかめ
ないパニックもあり、パニックを早めに収めていく方法を考えなくてはならない。
 調子のよいときは、職員との絡みは問題がないので、コミュニケーションを取るため
の思考からはじめるが、ほとんどが鸚鵡返しのため、コミュニケーションにならないため
、一瞬挫折しかけるが、一度作業中に、Dさんの順番がきた時に興奮して大きな声をだす
ので、 飛び跳ねようとするところを、抑えて、本人は「やめなさい」を繰り返している

職員の鸚鵡返しなのか、抑えることをやめて欲しいのかは、不明なため、彼の言葉を聞
くにはどうしたらよいだろうと、抑えながらひらめいたのが、ご自身の身体の名称を聞い
てみたらどうだろうと思い、耳を軽くつまんで、「これは何?」と聞く。
たまたま、「みみ」と答えてくれる。鼻を軽くつまむが「みみ」を繰り返す。
再び、耳を軽くつまんで「これがみみでしょ」、次に軽く鼻をつまんで、「これはなに
」と聞くと「はな」と答えてくれる。・・・そんなやり取りの中、Dさんの緊張した力が
緩んでくる。こちらの抑える力も緩め、コミュニケーションに力を入れてゆく。眼を触れ
て、唇を触れて、やり取りをしていく。
すべてを答えられるようになると、パニックも収まって、平常心に戻ることが出来ること
が、その後の何回かの対応でわかるようになる。初回の日は、パニックは収まるが、その
後、声を出して、涙を流して、昼食が始まるまで泣き続けていました。
私自身、泣いているDさんを見たのは初めて、児童部からかかわりを持っている職員も
泣いているDさんを見たことはなかった様子。
パニック時のその後の対応では泣くことはなく、コミュニケーションをとることで、パニ
ックを早く収めていくことが出来るようになり、他の職員も試みてくれましたが、抑えた
ときの抵抗が激しく、コミュニケーションにまで持ち込むことが出来ませんでした。
力の弱い私の押さえには従って、コミュニケーション対応でパニックを収めてくれてい
ました。・・・私の場合、作業と生活を一緒に担当していたことも大きかったかと思いま
す。

TOPへ戻る